2013年12月13日金曜日

名画を内から読み換える(1204asahi)

森村泰昌展「ベラスケス頌」「レンブラントの部屋、再び」

 絵画の登場人物になりきった写真作品で知られる森村泰昌(62)が、名画をいわば内側から読み換える独白のアプローチをさらに深化させている。
           
 新作「ベラスケス頌侍女たちは夜に甦る」の対象は、スペインの宮廷画家ベラスケスの代表作「ラス・メニーナス」。幼い王女を中心にした侍女や小人の群像と絵筆を手にしたベラスケス自身を措く。画面の事前にいると想定される国王夫妻が背景の鏡に映り込むなど、絵画空間の複雑な構成を巡り、様々な読み解きがなされてきた。その名画の世界を、森村が登場人物に扮した大型写真8点による「一人芝居」として展開している。
 舞台はマドリードのプラド美術館。「ラス・メニーナス」がある展示室に森村がたたずむ=写真上。場面が変わると、ベラスケスが絵画から抜け出して展示室に立つ。やがて王女らが展示室に現れる=同中=など、登場人物が絵画の内と外を往還するうちに、「ラス・メニーナス」は森村が全登場人物に扮装した異貌の絵画へと転じていく。
 鑑賞者は各場面の差異を確かめながら会場を巡るうちに、絵画の内外からの視線が交錯するという、原画の謎めいた構造を身体的に経験する。知的な構想を榔敵な写真で具現した作品は、上質なエンターテインメントとしても楽しめるだろう。
 別の会場で、1994年の個展をほぼそのまま再現した「レンブラントの部屋、再び」が開
催中。こちらの作品では、オランダの巨匠レユプラントの自画像に森村が扮している=同下。
 レンブラントは生渾にわたって約60点の自画像を措いたという。森村は、若き日から画家として成功した壮年期、借金と破産に苦しむ後半生へと「画家の一生」を追う。新作が絵画空間の謎に挑んだとすれば、こちらはレンブラントに重ねて「私」という謎に迫っている。
 80年代半ば、ゴッホの自画像から始まった森村の「名画シリーズ」は、すでに四半世紀を超す歴史を刻んでいる。今回の2展は、その表現の深化と達成を改めて認識する機会となっている。     (西岡一正)
▽「ベラスケス」は25日まで、東京・銀座の資生堂ギャラリー。曜休館。「レンブラント」は23日まで、垂屏・北品川の原美術館。最終日を除く月曜休館。

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