2013年10月16日水曜日

柔らかな気配秘めた意志(102asahi)

曽谷朝絵展「宙色」

 新しいメディアが登場するたびに、表現を巡る情報や評価は速く、かつ大量になってゆく。しかし作り手が、それに振り回され過ぎては表現を深めることができないだろう。その点、曽谷朝絵(1974年生まれ)の初期から最新作までを集めた個展を見ると、意志の強い一貫性を確認することができる。
 曽谷は東京藝術大の大学院時代からVOCA賞などを受賞。出世作は、木漏れ日の中を思わせるバスタブを措いた具象絵画のシリーズで、描写を省略することで、柔らかな光と浮遊感に満ちた気配を描き出した。
 その後はさらに要素を整理し水紋の重なりと輝きだけを抽出したような連作を手がけたり=写真上は「Circles」 (2007年、西村画廊蔵)、ガラスの水滴が映す色と光に着目したり。抽象の度が増していったが、やはり具象の描き手というイメージは横いていた。
 それが10年ごろから、がらりと違う表現を、絵画と並行して手がけるようになる。しぶきが飛び散ったような形にサイケな強い色彩を与え、重ね、それで展示室の床も塵も撃つ空間的な表現を始めたのだ。曽谷の絵画に親しんできた人の中には、作者はどこにいくのか、と戸惑った人もいたに違いない。
 それでも曽谷は変化を止めない。もっと淡くかつメタリックな色彩を与え、鑑賞者をどこか夢心地な光で包んでみせた。今回も、こうした空間的な展示の、より新しく、キュートなバージョンが2室を占めている。
 そして最新作は、高さ11Mの展示室の壁にも天井にも投影される初の動画作品「宙」だ。数々の光の球形や樹木、あるいは花を思わせる形が重なって現れうごめき、季節の移り変わりのように色も変えてゆく=同下。
 いわば回り灯籠の中にいる感覚で陶然と見上げていると、作者の脳内にいるような、あるいは命の営みそのものに包まれているような気分になる。映像を、中空の鏡面仕上げの球体に三方から投じて反射させるシステムの完成度も高い。
 あのダイナミックな作風の転換は、色と光と空間の方程式を一つずつ解いていたのではないか。だから、この映像表現に至ったに違いない、と思わせる。
 強い意志から生まれた光と色の空間を、身をもって体験できる。  (編集委員・大西若人)
 ▽27日まで。水戸市五軒町の水戸芸術館。7、15、21日休館。図録は青幻舎から刊行予定。

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