2013年9月12日木曜日

刺激・挑発の新「指輪」(910asahi)

ワーグナー生誕200周年バイロイト

 ドイツの作曲家ワーグナーの生誕200周年の今年、ワーグナー上演の殿堂、バイロイト音楽祭では7年ぶりの新演出「ニーベルングの指輪」4部作に注目が集まった。ドイツ全土でワーグナー上演が相次ぐ中、大いに議論を巻き起こした新「指輪」はバイロイトの存在感を改めて示すものとなった。
 旧東ベルリンの劇場フォルクス・ビューネを率いるフランク・カストルフは演出の狙いを「石油を巡る闘争」と説明。ただ、石油に関連するモチーフは現れるものの、人間の醜い抗争や社会主義の理想の失敗といったテーマが前面に出た。
 舞台は米国のガソリンスタンド兼モーテルからバクー油田の石油採据施設、ベルリンのアレクサンダー広場、ウォール街などに設定され、回り舞台を使った巨大な装置は非常に印象的。映像を多用し、歌っていない歌手の演技までも同時並行で舞台に映し出す手法は、特に演劇的な「ラインの黄金」で成功した。
 だが、挑発的な演出で有名なカストルフは本分を忘れない。英雄ジークフリートがカラシニコフで大蛇フナフナーを撃ち殺したり、巨大なワニが舞台に現れて森の小鳥をのみ込んだり、と観客を挑発。終演後には怒りのこもったブーイングの嵐を受けた。一方、バイロイトに初登場の指揮者キリル・ベトレンコは観客からも批評家からも絶賛された。ブリユンヒルデ役のキャサリン・フォスターやウォータン役のウォルフガング・コッホら歌
手陣も実力を示した。
 世界のワーグナーファンの注目を集めるバイロイトの「指輪」は1976年にシエローが演出した「世紀の指輪」と比較されるのが常だ。カストルフ演出は、最近の「指輪」の中では刺激にあふれていることは間違いない。批評も「思いつきを乱雑に提示」 (DPA通居)から「近年、最もインスピレーションに富んだ指輪」 (南ドイツ新聞)まで大いに割れた。(バイロイト=松井健)

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