2013年8月28日水曜日

歴史と記憶と(827asahi)

映像と言語、相互反応
米田知子展

 駅のホームがいくつも連なるさまを真横から収めた写真があり、秋の草原にたたずむ席を写した一枚がある。東京都目黒区の都写真美術館での写真家・米田知子(1965年生まれ)の個展には、対象を精密な構成で淡々と捉えた写真が並ぶ。
 配布された作品リストを見て、前者は伊藤博文が暗殺された中国の現場、後者は東日本大震災後の福島県飯館村の風景だと知る。
 米田は「写真イメージと言語の関係に興味がある。衰勢だけではなく、歴史性や社会性、さらには受け止める人によって『見えること』は変わる」と話す。悲劇的な事件の現場も多く、「恐ろしいことば、どこでも起きうることを示したい」。今回は、アジアにか
かわる作品を集めている。
 兵庫県に生まれ、現在はロンドンなどが拠点。両親から聞いた戦時中の話などの影響もあって、歴史や記憶に関心を持つようになったという。一方で、「写真としてのイメージの強さ」も重視する。「まず関心を引き出したい」からだ。
 イメージの強度なら、歴史上の人物が使用した眼鏡と、その人に関わる文章を一つの画面に収めた連作が挙げられる。今回も、坂口安吾や安部公房の眼鏡を使った新作が登場。見る側はタイトルを知った後に、おなじみの彼らの肖像を思い浮かべつつ、再度画面と向
き合うことになる。
 実はタイトルを知って驚いても、米田の写真自体は変わらない。変わるのはむしろ、次の写真を、あるいは他の写真家の作品を見る際の、見る側の態度だろう。米田の者現は、そのとき初めて完措するともいえる。 (編集委員・大西若人)
 ▽図録は平凡社から。

空気に黒い糸で描く塩田千春展

 高知市の高知県立美術館で個展が開かれている現代美術家・塩田千春(72年生まれ)。
展示空間をまるごと使うインスタレーション(空間展示)の手法で、彼女の心象世界へ
といざなう。
 大阪好守生まれ。ここ十数年間はベルリンを拠点に「記憶」や「死と再生」などを主
題に制作を続けている。
 両親は高知県生まれで、幼い頃から夏休みなどに両親と帰省し、高知での思い出が創
作の原点と塩田は振り返る。
 色濃く表れているのが、高知の伝統的な婚礼衣装を一対の鉄枠に収め、黒い糸でクモ
の巣状にからめた「存在の状態」だろう。婚姻を象徴しているのは疑いない。黒い糸を
使う表現について「空気のなかに線で描く」と言う。
 展覧会の副題にもなっている「ありがとうの手紙」と題されたインスタレーションは、約2400通の手紙か、黒い糸に絡み、結ばれ、高さ4手元の部屋いっぱいに展示されている。疾風に舞い上がるかのように。
 親しい人たちへ感謝の気持ちをつっった手紙は、展覧会のために高知の人たちから公
募した。「いつも支えてくれてありがとう」「お父さん、お母さん、産んで育ててくれ
てありがとう」
 手紙を読みながら巡っていると、記憶の申の誰かと話をしている自分に気づいた。「高知でなければできない、私の展覧会」と語った塩田の胸の内が、少しだけわかった。   (森本俊司)

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