2013年8月22日木曜日

独の写真家グルスキ−、日本で初個展(821asahi)

巨視と微視、自在に切り替え

 現代写真に新たな表現は可能か。その間いに、作品そのもので答えるのがドイツの写真家アンドレアス・グルスキーだ。日本初の個展が東京で開かれている。
 グルスキーは1980年代半ば、風景の中に違ぶ人々を大型カメラで撮影したシリーズを制作。広い画角と細密な描写が併存する写真で注目された。90年に場立ちの人々で厳然とする「東京証券取引所」を制作したころから、モチーフが画面全体を生め尽くす作風に転じた。本展は現在にいたる彼の歩みを、巨大なプリントを中心に65点でたどっている。
 92年ごろからデジタル技術を導入。その作品は広大な空間を高密度かつ高精細に描出する、巨大なイメージへと飛躍した。例えば、カラフルな商品が広い店内にひしめく「99セント」(99年)は、従来の写真術ではありえない、しかし圧倒的なリアリティーを構えている。
 驚くべきは巨視と微視を自在に切り替える、その視点。近作の「オーシャン」シリーズは、南極大陸やインド洋全体を視野に収める。衛星写真を利用し、繊細にコントロールした海洋の深い色彩に目を奪われる。.続く連作「バンコク」は、一転して川面の一部を切り取る。抽象絵画を思わせるが、細部をみればゴミや油膜が浮かび、現実に引き戻される。一連の作品に社会批評を読み取ることもできる。それは、グルスキーが雑誌や新聞から収集した画像から着想を得ていることに由来する。だが、その視点は人間の営みを追うジャーナリズムとは異なる。あえて言えば、ヒトの行動を観察する超越者の視点だろう。それゆえ、グルスキーが創出するイメージは魅惑的であると同時に戦慄的でもある。
(西岡一重)
 ▽9月16日まで。東京・六本木の国立新美術館。火曜休館。

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