2013年7月23日火曜日

「真の現実」を探して(717asahi)

〈遊ぷ〉シュルレアリスム

 シュールレアリスムは1920年前後に始まった芸術運動。日本では「超現実主義」と訳さ
れる。サルバドール・ダリの時計が溶ける絵画などが典型的なイメージとなり、現実離れした奇異な状態を指す「シュール」という言葉まで現れている。この、知っているようで本質をとらえがたい芸術運動を、現在の視点から再考している。監修した巌谷國士明治学院大名誉教授は、図録でこう説く。「超現実」の「超」は「チョーかわいい」というとき
のニュアンスに近く、「超現実」Jは眼前の現実に内在する「真の現実」を指す。したがっ
て、シュールレアリスムは「真の現実」を目指す物の見方、生き方である、と。
 そんなシュールレアリスムを読み解くキーワードとして、「遊び」と「ブリコラージュ」を挙げる。
 「遊び」は参加した作家たちにとって必要不可欠な活動だったという。実際にチェスやトランプを楽しむとともに、それらをモチーフにした作品=写真上、手前はマックス・エルンスト「王妃とチェスをする王」=もある。「言葉遊び」も制作の重要な要素。「モナリザ」の図版にヒゲを措き加えたマルセル・デュシャンの「LHO.0.Q.」は、仏語で「彼女のお尻は熱い(好色だ)」と響く。既成の価値に逆らう参加者たちは、「労働」に対立する「遊び」を原動力として「超現実」に向かった、と見る。
 ありあわせの材料による手作業が「ブリコラージュ」。その典型が既製品によるオブジェだろう。数十のハンガーを組み合わせたマン・レイの「障碍物」=同下=や、小箱にさまざまなモノを配置したジョセフ・コーネルの一連の作品などがある。印刷物などを貼り込むコラージュや、絵の具が乾かないうちに別の耗を押し当てて転写するデカルコマニーも、イメージの偶然の出合いで「新たな現実」をたぐり寄せる試みだった。
 こうした運動の背景にあったのは第1次大戦(1418年)後の欧州社会の状況、という指摘は重要だろう。空前の破壊と殺戮を経験しながらも、既存の価値や制度による「復旧」が急がれたのだ。震災と原発事故の後の日本社会で、シュールレアリストたちの精神に学ぶべきことは少なくない。 (西岡一正)
 ▽825日まで、東京・西新宿の揖保ジャパン東郷育児美術館。月曜休館。

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