2013年3月16日土曜日

芸術は悼み記憶する 震災2年(227asahi-306asahi)

 東日本大震災や原発事故は、美術などの視覚表現にも大きな影響を与えた。一方で、表現を受け止める側にも変化が現れ、作品を通して震災や侍代を見据える動きもある。さらに、紡がれる言葉。いくつかの事例から、「票災2年」を考える。

自然と人問に視点茨城・近代美術館
 茨城県近代美術館(水戸市)で開催中の「二年後。自然と芸術、そしてレクイエム」 (3月20日まで)に並ぶ50点を、一言で切り取るのは難しいかもしれない。東日本大震災を起点としつつも「横山大観の「生々流転」をはじめ物故作家の作品や、災害と直接関わりのない現代の作品も含むからだ。
 同美術館が応急復旧を終え、再開したのは震災から約1カ月半後。無料とした10日間で、通常の約5倍の5千人が訪れたという。市川政憲館長は「外の世界と違う緩やかな時間が流れる場所で、作品の前に立ち止まり考える。過去の上に立ち前を向く、という姿勢を回復しにきたのではないでしょうか」と振り返る。
 この展覧会は、そうした実感の延長線上に幾つかの視点を提示し、見る者の心の奥深
くを挿さぶる。一つは、自然と人間の関係。「生々流転」では、大気中の水蒸気が川となり海へ注ぎ、竜となって天に昇る「水の一生」が描かれる。私たちが目にする「自然」が、その一部でしかないこと。そして、その巡る営みに思いを致させる。
一方、韓国・珍島で、潮の干満の影響により海から現れた道を歩く観光客を写した、櫓
橋朝子の「Jindo.2009」。時に水面に見え隠れする人々の姿は、人知の及ばぬ現象と人間とが隣り合うことへの、恐れを呼び覚ます。
 もう一つは悼む心。「千の種族B」は、作者の井上直が25年連れ添った夫を失った直
後、毎日のように眺めた夕焼け、「原風景」なのだという。川辺にばつり、ぽつりとたたずむ人の姿に、大切な人を失う悲しみを抱えて、太古より生きてきた人間の歴史を
思う。
 そして、記憶。米田知子は「震災から10年」のシリーズで、阪神大震災から9年を経
た神戸の街並みを写す。キャプションがなければ、その場と震災との関係は一見分から
ない。それは「復興」という目に見える姿の裏に、傷や悲しみは消えずにとどまってい
ることを示すようでもある。
 ほかに、東日本大震災後の新聞を1カ月分ずつ束ねた河口龍夫の連作や、「東日本大
震災追悼」と記すエミコ・サワラギ・ギルバートの鉛筆画など、作家たちの葛藤を示す
作品も並ぶ。
 記録映像や証言とは別の方法で、あの震災を心に刻む−−。「記憶」を作品という形
とすることで、可能になることもまた、あるのだろうと思わせる。
 現在を「震災後」ではなく、いつまた誰が災害に遭うかもしれない「災間」と位置
付ける、この展覧会。3・11以来、「東北」から隔たった地にいた人も「あの日」と向
き合い、それぞれにとっての意味を考える場が必要だと、静かにささやきかける。
       (増田愛子)













アートとは 考える契機に

 東日本大震災から間もなく2年、アートを巡り、厳しく、あるいは内省的な言葉が語られている。1月下旬に仙台市で開かれた、宮城県や東京都主催の「なんのためのアート」と、全国アートNPOフォーラムの中で開かれた「震災後にみえてきたアート/アーティストの存在」でも、そんな言葉が聞かれた。
            
 水戸芸術館の竹久侑・学芸員は、双方で発言。被災地で行われたアート活動を記録・展示した同館の「3・11とアーティスト 進行形の記録」展の企画者だ。
 「作家たちは自分が被災地でやったことが作品なのか言い切れなかった。でも美術館で紹介すると作品に見えるし、お客さんたちも作品と考える。アートとは何かを考える契機になった」と話した。
 厳しい言葉を発したのは「震災後」に参加した、宮城県気仙沼市のリアス・アーク美術館の山内宏泰・学芸員。自身も、被災者だ。「被災地に、『アートです』と入
ってきて活動し、『楽しいでしょ』 『心が晴れるでしょ』と毎日言われ、飽き飽きしていた。悪意はないだろうし感謝もするが、やはりズレがある」と指摘した。一方で、地獄絵のような中で、ある美しさを感じたことを明らかにした。「路地が冠水した鏡のような水面に建物が映り込む様は、すごくきれい。心が少し解放され、幸せを感じた」
 「なんのためのアート」で掘り下げた発言をしたのが、岩手県陸前高田市出身で、津波により母親と実家を失った写真家の畠山直哉だった。「頼まれたわけではなく、ただ誰かに動かされていたように、被災した故郷を撮り続けた」と話し、アーティストとは、この名状しがたい誰かと私たちの関係を築く人ではないか、という考えを示した。
 アートとは何なのか、誰のためなのか。これからも問いが続いて
ゆくに違いない。 (大西若人)

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