2012年8月14日火曜日

奈良美智個展、深み増す(814asahi)

子ども描写、原点へ

 カワイイけれどブキミ。
そんな子どもの絵で知られる美術家・奈良美智(52)の新作個展が、横浜美術館
(横浜市)で開かれている。初めてのブロンズ彫刻や穏やかな表情をうかべる少女の絵画が、模索の時期をへた奈良の「現在」を示している。
 奈良が人気作家となったきっかけの一つが、2001年に同じ横浜美術館で開いた個展。孤独や、ときには残酷さも感じさせる子どもの絵が若い世代の共感を呼んだ。その一方で、当時頻発していた子どもの暴力や犯罪と重ねて話題にされるなど、反響は美術の枠を超えて広がっていった。その状況を奈良はどう受けとめたのだろうか。
 「当時は大きな故にのみ込まれて、自分白身を忘れていくその後の数年間につ
ながった」と奈良は振り返る。12年間拠点としたドイツから00年夏に帰国したば
かりだった。「自画像」として描いたパーソナル(個人的)な作品が突然、多数
のオーディエンス(観衆)を獲得したことに戸惑い、混乱したという。そうした
変化は作品にも影響した。「色の重ね方や構図がおろそかになって、ポップな表現やマンガ的なイメージだけが強くなっていった。(観衆の)期待に無麓識に応えて安易に作っていた」
 そこから模索が始まった。03~06年はデザイン集団「graf」と活動し、小屋を組むなどの仮設作品を制作。07年からは数年間、滋賀県の陶芸地に繰り返し滞在して土をひねった。昨年は母校・愛知県立芸術大に長期滞在して塑像に挑んだ。.他者との共同作業から孤独な制作へという軌跡は、「ドイツのアトリエで自分との対話を続けた」原点へと回帰するための旅路だったのだろう。
 11年ぶりの横浜での個展。粘土と格闘した塑像から鋳造した彫刻には、、生々
し小指の跡が残る。かつての繊維強化プラスチック(FRP)による滑らかな彫刻の面影はない。絵画はより大型になり、色を重ねた過程がうかがえるなどの変化が見て取れる。
 子どもというモチーフこそ変わらないが、その表情は内省的な深みをたたえる。それは奈良の自画像であり、同時に普遍的な人間像なのだろう。個展のタイトル「若や僕にちょっと似ている」にはそんな意味がこめられている。(西岡一正)
 ▽9月23日まで。10月、青森県立美術館、13年1月に熊本市現代美術館に巡回。

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