生と死 四半世紀を回顧
英国の現代美術家の中で一番有名なダミアン・ハースト(1965年生まれ)の初の大規模回顧展が、テート・モダンで開催され、話題を呼んでいる(9月9日まで)。
ハーストは英国中部リーズで育ち、ロンドン大学在学中の88年に自主企画展を主催し、頭角を現した。90年代にサメなど動物の死休を丸ごとホルマリン漬けにした作品は、「これが芸術か」と論議を巻き起こした。が、現代美術のパトロン、チャールズ・サーチ氏が援助し、やり手のホワイト・キューブ画廊が作品を売り一挙に成功を果たした。93年にはベネチア・ビエンナーレにに英国代表として出展、95年にはターナー賞も授賞した。今春のサンデー・タイムズ長者番付によれば、推定資産は2億1500万ポンド(約278億円)で、世界で最も豊かな美術家だと言われる。
今回は、縦に真っ二つに切断された牛と子牛をホルマリン漬けにした作品、ガラスケースの中で牛の頭にウジ虫がわき殺虫灯で殺されるという作品、薬局用の薬棚に薬のビンが並べられた作品など70点が展示されている。中でも注目されるは、21
年ぶりに展示される生きたチョウを部屋いっぱいに放ったインスタレーション「イン・アンド・アウト・オブ・ラブ」やフライパンに鮮やかなペンキを塗った作品など、めったに見る機会のない初期の作品群だ。
「芸術作品としての価値なし」 「ペテン師美術」などハーストヘの批判は後を絶たない。だが、テレグラフ紙の美術評論家リチャード・ドーメント氏は、「ハーストの美術家としての偉大さを、もはやとやかく言う必要はないと感じた」と評価
し、意外にも他紙の展覧会評もおおむね好意的だった。
四半世紀にわたる作品を総合的に見せることによって、「生のはかなさ」「死への恐怖」「存在の不条理」という彼のテーマが、やっと理解され始めたようだ。
今回はキャリア前半を振り返る回顧展、真の評価は彼がキャリア後半に何を作るかによって決まる。 (菅伸子・ライター)
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