2012年6月21日木曜日

「花」への思いと向き合う(620asahi)

身近な題材なのに、あるいは身近な題材だからこそ、か。予想外に多彩な「花」の表現に出合える展覧会が、千葉と重点で開かれている。絵画修練の基本ともいえる静物画から風景画、ポップアートや写真へと、「花」がジャンルを超えて咲き乱れる会場を訪ねた。
 DIC川村記念美術館(千葉県佐倉市)は緑生かな庭園にかこまれた美術館。ここで「FLOWERSCAPES(フラワースケープ)−画家たちと旅する花の世界」展が開かれている(7月22日まで)。

 題名は「花のある風景」を意味する造語。9章にわたって近現代美術の「花園」を散策するかのような構成で、随所に鑑賞者を引きっける仕掛けがのぞく。
 例えば、第1章で鑑賞者を迎えるのは、モネの「睡蓮ヘや「バラの画家」ル・シダネルの作品。次の展示室に進むと様相は一変。緑色の床面と黒い壁面の空間にウォーホル
とリキテンスタインが並ぶ。印象派からポップアートヘという西洋美術の変容をドラマチックに見せる。静物画を集めた展示室では、作者・作品名をあえて見つけにくい場所
に掲示し、一見ありふれた「花瓶の花の絵」に向き合うよう促している。

 著名な作家の、意外な作品も鑑賞者を驚かす。
 「非水百花譜」はグラフィックデザインの先駆者・杉浦非水が手がけた木版画集。図案集と植物図鑑の性格もあわせもつ、完成度の高い写生画だが、作家自身は「芸術品として、見観て戴く積もりは無論ありません」と記したという。
 三木富雄「バラの耳」は、石膏にバラの花柄をコラージュした彫刻。三木は耳をモチ
ーフにして制作を続けた彫刻家で、その初期の作品と見られる。無機質なアルミ鋳造で
耳をかたどった、後年の作品との隔たりは謎めいている。
 横山由紀子学芸員は展示構成について「作家が花を見つめた痕跡のある作品を選ん
だ。個々の作品を味わってもらいたい」と話している。一方、東京都調布市の東京アートミュージアムは、建築家・安藤忠雄による建物が並ぶ「安藤ストリート」の一角にあるギャラリー。世界の写真家16人が参加する写真展「Beautく(ビューティー)」を開催している(24日まで)。コンクリート打ちっ放しの空間に花々の鮮やかな色彩が映える。
 写真の描写は即物的で、花瓶の花をそのまま撮影したのでは絵画を超えられない。い
かにして豊かなイメージを獲得するか。そこに現代写真家の課題がある。マルグリット
・スムールダス(オランダ)は花と水を組み合わせて夢幻的な画像を生み出し、マイケ
ル・ウェズレー(独)は多重露光で花が散るまでの時間を1枚の写真に取り込む。
 咲き誇る花を被写体としながらも、死の気配を漂わせる写真が少なくない。その代表
格が一輪の花に官能性と死の予兆をともに宿らせる荒木経惟だろう。こうした現代写真
の花々は、暗色の背景に静物や花を描いて死を暗示する西洋絵画の様式バニタスを想起
させて興味深い。(西岡一正)

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