2012年6月5日火曜日

刺青長く深く浸透(605asahi)


 「TATTOO(刺青)あり」の公務員はありえない? 大阪市の橋下徹市長は、いれずみやファッションタトゥーを入れているか、回答義務つきで市職員に調査、配置転換も検討している。倶利迦羅紋々で人を脅す公務員など論外なのは言うまでもない。しかしいれずみ文化史は、意外に長くて広くて深かった。
 熊本保健科学大学の小野友達学長皮膚科学)は1970年、学童検診にあたっていた返遺前の沖縄で、出会う何人ものお年寄りの女性の手の甲に美しいいれずみがあるのを発見した。「身構えたが私の無知で、魔よけや願掛けなどの針突という広く行われた習俗だった」
 小野さんは熊本県でも、手首に小さな青い点をいれずみしている高齢の女性を診察することがあるという。「イグサ刈りという厳しい農作業で手を痛め、治療のためツボに針
を入れる。次に打つ時の印として、あるいは既に殖やされたという確認のために入れた古来の知恵です」
 小野さんは、古今の記録を調べて一昨年、Fいれずみの文化誌を出版した。日本最古のいれずみの記録は3世紀の中国の史書『魏志倭人伝』にさかのぼる。
 大阪市の調査は、児童福祉施設職員が子供をいれずみで威嚇した事件が発端。橋下市長は「公務員のいれずみ=許されない」という得意の(単純化)で、「いれずみ職員は民
間へ」と促す。だが、人はなぜ体に墨を入れるのか。
 小野さんによれば
1.他者を脅すという以外に
2.江戸時代の道都で始まった男女の愛の誓い
3.犯罪者への刑
4.絵柄自体の美しさに魅了(谷崎潤一郎『刺青」)
5.治療や癒し、
など理由は多岐にわたる。
弱さの象徴、糾弾意味ある?
 「そのほかに自傷行為の場合もある。リストカットと同じ。いれずみは自分を助けてほしいという心の泣き声」と小野さんは言う。
 もっとも歴史をひもとけば、政治家のいれずみさえ珍しくない。チャーチルやF・D・ルーズベルト、スターリンにも見られた。小泉純一郎元首相の祖父で逓信相だった又次郎
にもあったとされる。佐野派一『小泉純一郎−血脈の王朝』によると、又次郎が背中から二の腕、足首まで彫った入れ墨は、九紋竜だったとも、『水滸伝伝』の魯智深すなわち
花和尚だったともいわれる。
 ケンブリッジ大図書館日本部長の小山のぼるさんは、英王室を中心にヨーロッパ貴族社会で起きたいれずみブームを研究、『日本の刺青と英国王室』を一昨年出版した。明治初
期、日本政府は野蛮な習俗としていれずみを禁止したが、逆に文明国の貴族には憧れの対象。わざわざ日本で彫るいれずみは「大変な熱狂状態」と当時の英紙は報じた。のちの
ジョージ5世とアルバート王子も、1881年の来日時に鶴と竜を彫った。
 小山さんは「今の英国でも知られていないと思うが、たとえ知ったとしてもそんなに驚かないのでは。いれずみを入れる、入れないはまったく個人のこと。公務員がいれずみを
入れているかどうかで大騒ぎするのは大人げない」。米国でも軍人や暮察官などのいれずみは珍しくない。橋下氏のもう一つの得意技、(グローバル化)の中で考えると、いれず
み調査自体が相当異質だろう。
 前出の小野さんは、いれずみを消す手術も数多くした。「休に異物を入れるいれずみは健康上よくない場合もあるので、医師としては決して勧めない」としたうえで、「いれず
みは文化だ」とも断言。 「単純化には意味がない。若いときに悩んで入れ、苦労してようやく正業に就けたのが市職員、というケースもあろう。今、糾弾する意味があるのだろ
うか。いれずみは人間の弱さの象徴。私は、入れてしまった人の側に立ちたい」と話した。(近藤康太郎)

刺青、タトゥーとも言う。針などで皮膚を傷つけ、丘や朱などを入れて着色する。埴輪
 (はにわ)にもその跡が見られるなど、先史時代から存在する。

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