2012年6月2日土曜日

「発見された身休」展(530asahi)

アラブ美術新たな体系へ

昨今、アラブ美術の動向が世界的に注目されているが、パリでもアラブ世界研究所美術館の「発見された身体」展が盛況だ。19世紀末から今日までの200点もの絵画や彫刻、写真、ビデオアートなどに登場する「身体」によってアラブ美術を読み解く試みである(7月15日まで)。
 同研究所はアラブ諸国の文化と西洋文化との融合を目指す複合施設。今年2月のリニューアルで美術館機能が拡張。アラブ世界を共通の言語でつながる一つの文化圏としてとらえ、その美術の普及に取り組んでいる。
 展示では約70作家が紹介される。冒頭を飾るのは、ルノワールとも親交のあったハリール・サリビェやパリのボザールで学んだジョルジュ・ダウド・コルムの描く裸婦像。1890年代から20世紀初頭に西洋へ渡った彼らは、生きたモデルとの対峙から技術を習得した。
 その後、アフリカ北西や中東に西洋アカデミズムが広がる一方、モダニズムを迎えた「身体」は自己の模索を始める。踊り子などの商業写真によって西洋に蔓延していた東洋趣味を払拭しようとする、脚色のないアラブ女性の裸婦像や抽象画も登場。描かれる側だった女性の進出も見られ、1930~40年代には、後の女性作家の活躍を先導するヒユーゲット・カランドやモナ・サウディが生まれている。
 印象的なのは、アルジェリア系女性でパリで活躍するハリーダ・プグリエットの写真作品。白いドレスの老女が優しい光にまどろんでいる。それ以降の展示は、ここ訓年間の急激なアラブ美術の多様化を証言していくが、他の女性作家が抑圧への反旗として露出させる肉体と、ブグリエットの表現する老女とは異質だ。「身体」から乖離するような感覚があり、社会を映す化身としての生から解き放たれようとしている。移民や婚姻によって身休上の西洋文化との融合が進むいま、フランス発アラブ美術は新たな体系へと向かっている。(飯田真実・美術史家)

0 件のコメント:

コメントを投稿