2012年5月9日水曜日

暗がねじれたアバンギャルド(502asahi)

山口晃展「望郷」

 武者絵と現代風俗がつながったり、現代建築に古風な建物の屋根が載ったり。時を超える楽しみに満ちた作風で知られる山口晃(42)の個展「望郷」が13日まで、東京・銀座のメゾンエルメス8階で開かれている。立休、絵画と軽やかに山口ワールドが展開している。
 「こんなところに電柱あったっけ?」。ガラスブロックに囲まれた吹き抜けに足を踏み入れ、こう思う人もいるだろう。立ち並んでいるのは、実は既存の丸柱を山口が電柱に見立てたもので、題して「忘れじの電柱」。昭和の懐かしさの一方、そこに付く機器はメカっばく、ツルツルピカピカしている。
 「SF的、未来的だが、男の子の落書きが立ち上がったような古臭いものとして作った」と山口。見立ての面白さに加え、やはり時間が交錯している。
 電柱以上に作りたかったというのが、「正しい、しかし間違えている」と題した小部屋。中に入ると、部屋の床が傾いている。それだけで生まれる違和感。かつて遊園地で体験した仕掛け小屋の「再現」だとか。
「望郷というと後ろ向きだが、希望の『望』でもある。同じものを作るのではなく、かつての感動の再現が大事かな、と」
 そして、もう一部屋にはいつもの筆敦による水墨画風の東京パノラマ「TOk・10山水」が銭座。驚異的な細部と異なる時間が接続した都市の姿に吸い寄せられる。
 「写真が登場し、宗教からは放り出され、と美術はやせ細ってきた。でも、やせ細りと研ぎ澄ましを同義としてやってきた」。敵艦でねじれたアバンギャルド宣言というところだろうか。  (編集委員・大西若人)

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