2012年4月24日火曜日

キュレーターが語る本(418asahi)

国際的に活躍する現代美術のキュレーター2人が、関わってきた作家や作品を語る本を相次いで出版した。それぞれの歩みをたどることで、現代美術をより深く楽しむことができる構成にな っている。
 国内外の展覧会を企画するキュレーターとして、現代美術の案内役ともなる本を書いたのは、南催史生・森美術館長と長谷川祐子・東京都現代美術館チーフ・キュレーター。ともに数々の国際美術展に携わり、美術館の外でも横板的に現代美術を紹介してきた。
 南候館長の原点は1977年、ドイツ。バケツや建設資材らしきものが横まれ、パイプから油状の液体が垂れるヨーゼフ・ボイスの作品に衝撃を受けた。
 『アートを生きる』 (角川書店)では、そうした経験を皮切りに、国際交流基金職員だった80年代以降に関わった作家やプロジェクトを振り返っている。
 「考えを刺激されるけれど娯楽でもある。現代美術とはそういうもの。作品解説より、私はこんなものを見た、面白かったというほうが伝わるんじゃないか」
 80年代に顕著になった、それまでのミニマルやコンセプチュアルな流れへの反動が「アートがアジアに拡大する時に非常に重要な基盤を提供した」とみる。
 89年から米国内を巡回した「アゲインスト・ネーチヤー」厳では椿昇や森村泰昌らを国外に紹介。「日本という国に根ざしたストーリーでアートを作ってもいい、という一つのメッセージ」になったと振り返る。
 近年、アジアを注視している。森美術館でも中国やインド、韓国などの作家を紹介。6~10月はアラブの現代美術の展覧会を開く。
 長谷川チーフ・キュレーターは90年ごろから経験を重ね、金沢21世紀美術館には立ち上げから関わった。
 『「なぜ?」から始める現代アート』 (NHK出版)では、マシュー・バーニー、金沢21世紀美術館の「スイミング・プール」で知られるレアンドロ・エルリッヒら共に仕事をした作家を入り口に、「ポリティクス」 「自然と人間との関わり」など、世界を考える
ための視点を提示する。
 今、力を注ぐのは、瀬戸内海の犬島の集落に建築家の妹島和世設計のギャラリーを開き、作品を展示しているプロジェクト。アートで地域を変えたいと考える。「アートにひかれて来る人を迎え入れ、作品の説明をすることが住民の精神を活性化する」と語る。
 「現代美術」を第2次世界大戦後の美術と定義すれば、始まりからもうすぐ70年。その作品も、やがて「古典」になるのか。
 長谷川チーフ・キュレーターは「例えばボイスの作品が千年、生き残るかば分からない」。しかし、作品が生み出された意味や視点は消えないと考える。南儀館長は「時代の解釈によって別の重要性が生じる。そんな重層性を持った作品は古典になり得る気がする」と話す。  (増田愛子)

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