2012年3月3日土曜日

野田裕示 絵画のかたち/絵画の姿(229asahi)

表現の推移30年を見る

風景や人物を描くことから外れた抽象絵画は、そうした具体物のイメージを伝える必要もなく、ある意味でモノそのものとして存在する。画家・野田裕示(59)が1980年代に手がけた画面に木片などを張るレリーフ状の表現は、モノなら平面でなくても構わない、と絵画の概念を拡張した結果と映る。この30年の絵画約200点を軸にした回顧展の前半はそんな作品群で進む=写真上=は87年の作品。
こうした表現は反芸術の香りもするが、興味深いのは、思い切り重させた絵画を、次第に平面に収めてゆくことだ。91年以降は、カンバスの表面に同じ大きさの布を張り、切れ込みを入れて折り返して、その後に色を載せている。関心が表面性により強く移行したと見える。
自らルールや制約を設けて試行し、次の段階に移る極めて自覚的な手法は、近代的な科学実験に近い。しかし、手法だけで摩れた作品は生まれない。渋い色調の組み合わせや、ときに土俗的、ユーモラスな形態、陶や壁のような絵肌といった「野田調」が魅力になっている。
特に2000年前後からは、画面の一部にだけ張った布の縁が分割の「虫ごとなり、作家の
身ぶりを息わせる「描く」行為も多く加わる。抽象画本来の色と筆致、軽みのある切り紙のような形が浮遊感を生む。モダニズム的な構築手法が基底にありながら、時に古代の壁画などを思わせるのも興趣に富む。
展示室内では惜6・5Mに及ぶ新作「WORK1766」=同下=の制作過程を収めたビデオが流れているが、布を重ね、やすりで削り、という、モノとしての壁を作るような過程が含まれている。この作品では、やまと絵の山並みのような形態を重ね、近代の透視図法と
は異なる遠近感を目指したのだという。一枚の絵の中にも、作家活動と相似形の、手法と大きな意志が潜んでいるのだ。
白い壁と高い天井の不純物なき空間は、こうした手法や過程を確認し、絵画空間に身をゆだねるのに最適。そこに広がっているのは、「絵画の実験室」なのだ。 (編集委員・大西若人)
▽4月2日まで東京・六本木の国立新美術館。火曜(祝日の場合は翌日)休館。2月25日ま
で東京・京橋2の8の18のギャルリー東京ユマニテでも個展。

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