2012年3月24日土曜日

デービッド・ホックニー大回顧展(307asahi)

風景画に新境地

 鮮やかな色使いのポップな具象画で知られるデービッド・ホックニー(74)は、英国で最も人気のある現役美術家の一人だ。そんな彼の、大半が初公開の風景画150点以上を見せる大個展(4月9日まで)が、ロンドンの王立美術院で開かれ、話題を呼んでいる。
 英国北部の故郷ヨークシャーの風景を過去8年間、精力的に措いた。「風景画というジャンルは古臭くなっているが、風景自体は古びてはいない。どうやって新鮮な見方をするかだ」と彼は蘇る。
 ロンドンの美大に学んだ後、1960年代に日差しの明るい米国ロサンゼルスに拠点を移
し、斬新なスイミングプールの作品群で国際的に名を成した。97年、死に瀕した故郷の親友に、「ヨークシャーの風景を措いたことがない」とけしかけられた。故郷の自然を見つめ始めた彼は、常夏の地にはない変転する季節の美しさを見直した。2004年ごろ拠点をヨークシャーに移し、自然の微妙な変化を細かく観察し、精魂を込めて風景画で表現した。
 2階にある13の展示室すべてを使った展示は、3本の大木の四季を描いた4作品に始まる。
続いて、繊細なタッチの水彩画や素描、屋外で描いた中サイズの油絵群、縦2・7Mで横6・1Mといった油絵など起大作数点、タブレット型の多機能端末iPadで描いてプリントされ
た50点あまり。
 目を引くのは、少しずつアングルを変えた9個のビデオカメラを使い、さまざまな美しい風景を異なる季節に撮影、編集した画像。ホックニーは、キュービスムに深い関心があり、ものを一つの視点からしか見ないカメラに疑問を持っているのだ。
 美術評論家のワルデマー・ヤヌスチャック氏は「たいへん野心的。所々けばけばしい作品もあるが、精神に衝撃を与える」と評価する。
 伝統的手法そして新技術を使って、さりげない田園や森を措いた作品からは、風景画で新たに挑戦したいという彼の膨大なエネルギーが感じられる。中でも・1Pad作品は、ぼかしと鋭い点や線が巧妙に表現され、その技量に目を見張らされる。
     (菅伸子・ライター)

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