2012年2月20日月曜日

装丁家/グラフィックデザイナー 名久井直子さん(220asahi)

出来る全ての事で本を送り出す母心かな 

  なくい・なおこ●1976年岩手だ生まれ 武蔵野美術大学卒井後、広告会社にアートディレクターとして勤務。在職中に友人である歌人・錦見映理子の歌集の装幀を手がけたことから本の仕事がスタート。2005年に独立し、ナンクデザインを始め、紙まわりの仕事に携わろ。年間にデザインを手がける本は100冊近い。主な装丁本に「やわらかなレタス」(江國香織/文芸春秋)、「本日は大安なり」(辻村深月/角川書店)、「すべて真夜中の恋人たち」(川上未映子/講談社)ほか多数。

 小説、辞典、絵本の装丁、雑誌の表紙など名久井さんが手がける分野は広く、書き手本人から「名久井さんの装丁で」と指名されることも多い。それは激戦区の書店で売れることも意味するのだろう。
 美術大学を出て初めに就職したのは広告会社。アートディレクターとしてだった。一つの広告に大規模な予算と時間をかけ、半年以上も練り上げたものが、はんの一週間ほどで打ち上げ花火のように消えていくことになじめない感覚があったそうだ。
 「素晴らしいクリエーターの方と仕事が出来るのは、とても刺激的です。でも作ったポスターなどは、物として誰の手にも届かない(笑)。それが残念でしたね」
 だが、本業とは別に手伝った友人の本の装丁が、編集者の目に留まった。会社の仕事をしながら次々と装丁の依頼がくる。こっちの制作の方が好きだと思いながらも、名久井さんは数年闇両立させて頑張り、100万円をためてから独立する。
 「ダメもとです(笑)。パソコンも使えるし、いざとなれば食べるぐらいのことは出来ると患って」
 でも、その日から装丁の仕事が途切れたことはない。作家が書き終えたゲラを読み、まずふわふわと慕ってくる「世界」を巫女さんのように感じ取ることから始まると笑う。
 「どれ一つ同じ世界はありません。だから、私が感じたことを読者の目に、手に訴えるために、紙、書体、デザイン、行間、帯、そのはかあらゆる感覚を総動員しますね。出来うる限りの全てを持たせて、送り出してあげたい、というお母さんの心境なんです。持たせ忘れたと後悔したくない。そして向こうで売れておいで、
と」(笑)
 ある本では、外国から名久井さんに届いた少年の手紙のl文字ずつを切り取ってタイトルにしたそうだ。「そこまでやるか」と感嘆した作者がエピソードを伝えるはどのこだわりよう。町へ出れば古いそば屋の箸袋を持ち帰ったり、気になるものは拾い集めたり。
 名久井ワールドは面白い。 田中美絵=文 南條良明=写真

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