2012年2月16日木曜日

爆発的な才能の発露から自裁へ(212asahi)

30秒に燃えつきた生涯
 川村蘭太(著)

 リッチでないのに リッチな世界などわかりません ハッピーでないのに ハッピーな世界などえがけません「夢」がないのに 「夢」をうることなどは・・・・・・とても嘘をついてもばれるものです
  テレビCMの花形ディレクターだった杉山登志は、こんな言葉を残して1973年に自殺した。本書は、37歳で閉じた杉山の生渾を追いつつ、いまも衝撃力をもつ遺文の由来と意味するものをまさぐっている。
 石油会社のCM。「ノンビリ行こうよ俺たちはー・なんとかなるぜ、世の中は」。そんな言葉が流れ、2人の男が両脇から古いダットサンを手で押して行く。高度成長期、モーレツ社長という時代の言葉に逆行する慰札と映像だっ一た。締めは「車はガソリンで動くのです」。杉山は、こんな秀抜な「消耗商品」を年間八十教本も制作していた。
 画家を志したこともあったが、縁あってCM制作会社に籍を置く。ナイーブな、翳りを宿した青年は業界の先駆者となってひた走る。
 名声、外車、酒と女。多くを手に入れつつ、亀裂と空洞は広がっていく。好きな作品
はという問いに「ないですね」と答える。「いやだなあ、この職業は」とつぶやきつつ、「CMが当たる、当たらないは二の次だ。商品が美しくあればそれでよい」とも口にする。
 十数秒、あるいは数十秒の虚の世界。そこに、自身の逃げ場のない「生き方」をも込
めていた。だから才能が爆発的に発露したのだろう。走り切って白裁する。それはもう
(自然)とさえ思えてくる。
 著者は「事実」の確認というこだわりをもって鬼才の足跡をたどる。少々肩の凝るペ
ージもあるが、杉山への愛惜の念があふれている。仮構(バーチャル)がますますは
びこる今日、灘された言葉は消耗されることなく世をさまよっている。
評・後藤 正治(ノンフィクション作家)

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