2012年2月10日金曜日

「見る」超えたアート(130asahi)


  「目で見る」ことを超えてアート作品を感じ、内面を豊かに広げてほしい。そんな思いで創作を続ける美術家がいる。見えないからこその表現を追究し、鑑賞法に工夫を凝らす。美術館も目の不自由な人に向けた取り組みを進めている。

 全旨の芸術家と学生、対話し制作

 和太鼓の力強いリズムが展覧会場に響き渡る。10歳の頃に失明した京都市の美術家、光島貴之さん(57)が、色とりどりのテープやシートを即興で切り抜いては、言葉で説明し、壁のシートに貼り付けていく。「いま黄緑色のテープで、画面の端に、渦巻きを描いています」。そんな説明に合わせ、和太鼓奏者の片岡亮太さん(27)が音を紡ぐ。片岡さんも全盲だ。
 21日、神奈川県相模原市の女子美術大学美術館で、こんな公開制作が行われた。美術館では昨夏から、光島さんと11人の学生が絵画や彫刻について話し合いながら、抱いたイメージを元に作品を共同制作したり、互いの作品に触発されてのリレー制作を行ったりしてきた。2月5日まで開催中の「input→Output」展(火曜休み)で、成果を見られる。鍼灸院を営む光島さんは30代半ばから、粘土造形や、平
面にテープやシートで凹凸を生む「触る絵画」を制作、画廊や美術館で発表してきた。「マイナスがプラスに転じる創作活動を通じて、自分もこの社会に存在していいと思えるようになった」と語る。
 今回、初めての共同制作で、光島さんは、学生と一緒に買い出しに行き、針金や鎖、ボタンなど、使ったことのない素材に挑戦した。「作家としての転機になると思う」と話す。
 学生との共同作業は、誤解と修正の積み重ねだったという。たとえば学生が、描かれた人の頭部を「巻き尺のよう」と表現した際は、最初に抱いた機械的な印象に引きずられ、制作に向けてしっくりこないこともあった。言葉で鑑賞することの危うさを感じた。だが、「そう見える人もいるのだと思った時に、自分の中で広がりが出て、おもしろくなった。答えは一つじゃないんです」という。
 参加した学生たちからは、「思いや情報を伝えるだけでなく、受け取ることに意識的になった」などの声が上がったという。担当学芸員の梅田亜由美さんは「双方に発見や刺激があり、作品への見方が深まる」と話す。

香りつき・大きさ違う粒で「スナエ」触る・かぐ

 「スナエ」はハーブの香りをつけた砂とサンゴの粒をキャンバスに張って描く「触って、においをかぐ絵画」だ。富山市の美術家、高橋りくさん(娼)が考案した。赤はローズウッド、紫はラベンダー、緑はセージなど15の色ごとに香りを決め、粒子が粗くなるにつれて色が濃くなる。
 3年前から始めた取り組みの背景には、亡き父への思いがある。3歳の時に石目を失明した父は、娘が美術家になることに反対したものの、後には温かく見守ってくれた。だが20年前、病気で左目も見えなくなると医師に宣告され、64歳で命を絶った。
 「亡くなる数日前に父から電話があり『人間は、一つの道を貫くことが大切』と。生きていたら、スナエを楽しんでくれたはず」。そんな思いで作品を視覚障害者の施設や学校などに寄贈。2月4日まで、東京・三軒茶屋の画廊ガルリ・アッシュ(月曜休み)で8点を披露している。
 市民や研究者グループ、美術館も動き始めた。横浜美術館(横浜市)は一昨年から、宙視や全盲の人たちと検討会を重ね、鑑業ガイド作りや、ボランティアと対話しながらの鑑菓会を試行してきた。
 関淳一・同館創造支援担当グループ長は「本物の作品の前でしか感じられない力            があり、視覚を超えた『観る』ことの意味も考えさせられる」と話す。2月25日には常設展で、6月には「マックス・エルンスト」展で鑑賞会を開く。同様の取り組みは、各地の美術館で広がりつつある。 鑑業者の活動では、東京の
「MAR(マー)」 (http://www2.gol.com/users/wonder/mar/martop.html)
、京都市の「ミュージアム・アクセス・ビュー」(http://www.nextftp.com/museum-access-view)などの市民グループが、鑑賞会や創作のワークショップを開いている。(小川雪)

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