2012年1月26日木曜日

隠れた真実探す表現(125asahi)

「パリのシュールレアリスム」展

 現代でも十分刺激的なシュールレアリスム。その全貌をとらえようとする展覧会がスイス・バーゼルのバイエラー財団美術館で29日まで開催されている。
 作家は約40人。油絵、写真、映画、オブジェなど290点の作品が、ゆるやかな共通項によ
って数人の作家ごとに各部屋にまとめられる。共通項とは、風景、人物、オブジェ、写真・映画、シュールレアリスム的な作品、運動を支えた2人の女性コレクター。これにダリだけの部屋が加わる。
 「年代的に並べても意味がない。できるだけ作家ごとに作品をまとめ、作風を味わってもらうことに重点を置いた」とヨアナ・ジンポリーン学芸員。
 さらに、シュールレアリスムにおける、オブジェや映画といった表現手段の多様さのほか、表現そのものの多様さを理解してもらおうという意図もある。
 表現の多様さとは、例えば夢を使うことだ。ミロの風景画「修道院」を引き合いに、ジンポリーン学芸員は「シュールレアリスムの作品では必ず具象的な形が描かれる。だが、その形、組み合わせ、配置が非現実的。ここでも木、鳥、人などい構成は作家の頭の中または夢の中で作られている」と解説する。
 シュールレアリストは、ほぼ例外なく第1次大戦に参加し、「大戦は権威者側からの意識レベルの操作によって引き起こされた」と反省。国家や教会を否定する代わりに無意識レベルを解放させ、新しい芸術の表現方法を探った。それが夢や「日常の思いがけないもの同士の出合い」といった表現へ向かわせた。
 地元スイスのメレット・オッペンハイムの「私の看護婦」では、看護婦が履く白いハイヒールが銀皿に逆さに置かれ、ひもで固定されている。ハイヒールは銀皿と出合うことで鶏のもも肉に、ヒールの部分はその骨へと変身する。そして、思いも飛躍していく。もも肉の昧や触感は。看護婦はどんな姿形だろう。本当に親切なのか……。
 こうした連想こそ、実はものの背後に隠れたさまざまな真実を見いだす訓練につながるそしてシュールレアリストが意図したように、国家レベルでの意識操作に対抗していけるのかもしれない。(里信邦子・美術史家)

0 件のコメント:

コメントを投稿