2011年6月19日日曜日

「ジム・ダイン主題と変奏」展(608asahi)

版画豊かに変容



版画は同一の図像を複製する技法。それが「常識」だろう。ところが、米国の現代作家ジム・ダインの版画は変容を続けてやまない。その軌跡をたどる「ジム・ダイン 「主題と変奏」展が、名古屋ボストン美術館(名古屋市中区)で開かれている。
 ダインは1935年生まれ。60年に当時「ハプニング」と呼ばれたパフォーマンスで注目された。同じころから本格的に版画制作を始め、これまでの作品数はおよそ千点。「絵画や彫刻、写真も辛がけているが、版画に最も喜びを感じる」という。
今回の展示は版画作品152点をテーマ別に9章で構成する。
 初期作品で目を引くのが工具類やバスローブなどのモチーフ。よく見ると工具はふさふさとしたひげをたくわえ、宙づりにされたバスローブは誰かの抜け殻のよう。ダインが「人間的な感情の受容体」と位置づけるように、日用品に作家白身や親しい人物のイメージを託している。70年代には人物像が主要なモチーフの一つとして浮上。同時に、一つの版に次々と手を加え、他の版と重ねるなどして、図像を大胆に変容させる制作方法が顕著になってくる。
 その代表作が25点の連作「屋外にいる7月のナンシー」 (78~81年、展示は4点)。香らしい経で彩られた女性像は、別版によるユリの花や手描きによる彩色が重ねられ、やがて暗鬱な黒の色面に沈み込んでいく。「エッチング交響曲」とも呼ばれる作品で、妻をモデルに人生を描いている。
 ダインは「私にとって、版画はドローイングのもう一つの方法だった」と語る。つまり、版画を複製可能なメディアに限定するのではなく、図像表現のダイナミズムに開放すること。その柔軟な姿勢が豊かな結実をもたらしている。 (西岡一正)
 ▽8月28日まで。7月18日を除く月曜と7月19日は休館。

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