2011年2月18日金曜日

音楽に迫る表現(215asahi)

「耳をすまして」展


「耳をすまして」展

 芸術は大きく、言語系と非言語系に分けられる。文学は前者だし、音楽や美術はおおむね後者だろう。一方で音楽は聞こえるが見えず、美術は見えるが聞こえない、という違いもある。水戸市千波町の茨城県近代美術館で開かれている「耳をすまして」展は、音楽との関わりから近現代美術を読み解いている。
 音楽をどう美術として表現するか。管弦楽団を措いたデュフィや、琴を前にした少女をとらえた小林古径ら、演奏風景として描く方法がある。ブールデルによるベートーベンのブロンズ像なら、人としての音楽か。近代の作家たちは音楽の「周辺」を描こうとしたことが分かる。
 それを一変させたのが、抽象絵画だろう。音楽を聴いて「色彩を心のうちに見た」とされるカンディンスキーは、音楽そのものを色彩と形態による抽象絵画に。「音楽をモデルに抽象化が進んだ」と学芸員の渾渡麻里さんは話す。非言語系表現の共通性を抽出したともいえそうだ。
 日本における早い時期の抽象絵画とされる神原泰「スクリアビンの『エクスタシーの詩』に題す」 (1922年)=写真上=も、音楽の躍動を原色と表現主義的な筆致で表現。画面から音楽が聞こえてきそうなクレー、音楽の楽しさを思わせるマティスなども紹介されている。
 表現や素材の領域を拡大してきた現代美術では、音は描く対象から素材そのものに。藤本由紀夫は、オルゴールを様々に使って音の様相を変化させる作品を提示。八木良太「VINKL」 (05年)=同下=は溶けて色が次第に雑音になる氷製レコードにより、音楽の不思議、記録のはかなさを想起させる。ある意図に基づき過去から現在までの作品を見せるテーマ展が、良心的に実現してぃる。
  (編集委員・大西苛人)
 ▽3月6日まで。

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