2010年8月21日土曜日

Kバレエカンパニー 「New Pieces」(818asahi)


若手作品集め新境地


 古典作品に定評のあるKバレエカンパニーが、気鋭の若手日本人振付家の新作を集めた公演を行った(1日、東京・赤坂ACTシアター)。
 「戦慄」は、ハンブルク・バレエ団で活躍後、カナダで活動する服部有吉の作品。シューベルト「死と乙女」に乗せ、純粋無垢な乙女(SHOKO)が闇にうごめく男たちに慄き、魅惑される姿をドラマチックに見せた。
 「Evolve」の長島裕輔は、ステイーヴ・ライヒのミニマル音楽を使い、クールで幾何学的な美を構築。無音の舞台に女性(松岡梨絵)が現れ、危うい均衡を保ちつつ緩やかに空間を切り拓いていく印象的な幕開けから、12人の男女のソロ、デュオ、トリオが、反復とずらしと共に絶え間なく踊り、観客に視覚と聴覚が溶け合うかのような快感を与える。幕切れにはダンサ
ーらが力尽きたように一斉に倒れるユーモアも。優れた音楽性とセンスを持つ、今後が楽しみな振付家だ。
 中村恩恵の「Les−FleursNOirs」は、どこか東洋的な厳かさと官能をたたえたデュオ。明暗の対比の美しい舞台と衣装、静謹なジョン・ケージから甘美なパーセル、荘厳なバッハヘと音楽が移る合間に、ボードレールの詩が朗読される。
 装置、衣装、音楽が極限までそぎ落とされ、物語に奉仕することを止めたダンスは、その純粋な美しさで観る者の心を打つ。無比の正確さで音を捕らえる熊川哲也のクリアな動き、しなやかな回転や跳躍は、地上の存在は象徴のレベルで照応し調和するというボードレールの美学とも重なる。通奏低音を奏でるような中村の澄んだ動き、抑えた情念も素晴らしい。
 派手さはないが、新境地を求めるカンパニーの気概を感じる魅力的な公演だった。
 (岡見さえ・舞踊評論家)

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