2010年7月13日火曜日

「池田龍雄−アヴァンギャルドの軌跡」展(707asahi)

反骨の画家戦後の軌跡

 左向きだったり、右向きだったり。戦後の日本社会を潮の流れが変わる海に例えるならば、池田龍雄は反骨という羅針盤を頼りに航海を続ける画家といえるだろう。
 1928年、佐賀県生まれ。17歳の時、特攻隊貞として終戦を迎えた。師範学校に入るが、連合国軍総司令部(GHQ)の方針で教師になれず、絵の道に。反骨心は社会情勢によって育まれた。
 約140点を時系列に並べた展示は、シュールレアリスムやキュービスムの影響を受けた難解な油彩画から始まる。
 50年に起きた朝鮮戦争をきっかけに、絵はリアリズムへと一変する。芸術が反戦や革命を後押しするには、大衆に理解してもらう必要があるからだ。取材を基に措く「ルポルタージュ絵画」が生まれ、代表作の「網元」 (53年)=写真上、垂泉都現代美術館蔵=では、米軍に協力する内灘(石川県)の有力者を風刺する。作品は人間の非合理さを表す「化物の系譜シリーズ」へと続く。
 60年代になると、再度、難解な作品へと戻る。60年安保闘争に敗れ「芸術に政治的な力はない」と
挫折感を味わったためだ。漆黒に浮かぶ楕円を描く「楕円空間シリーズ」などを経て、70年代には概念芸術」へ。徒労のパフォーマンスーヘ梵天の塔ヘや15年間かけて天地創造の神話を描いた「BRAHMAN」=写真下=を手がけた。だが、これらの概念芸術を、革命に破れた芸術家の遁世ととるべきではない。
 「BRAHMAN」では宇宙から生命が誕生する様子を有機的な形で描く。人間を深く知るために根源までさかのばった連作ともとれる。以後の「万有引力」 「場の位相」シリーズも人間探索の延長線上にある。「権力に対する抵抗意識は今も心の申にある」と池田。展示はこのほか、交流のあった作家の18点と関連資料約80点。
 終戦から65年、美術でも戦後は過去のものになりつつある。60年の画業をたどる今展は、一人の画家を通して戦後美術を顧みる展覧会でもある。  (西田健作)
 ◇19日まで、甲府市責川の山梨県立美術館、12日休み。川崎市岡本太郎美術館、福岡県立美術館に巡回。

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