2010年6月26日土曜日

芸術か悪ふざけか(625asahi)


若者6人「チンポム」初の作品集

 ここ数年、ストリートアートの話題を独占した感のある6人組、
Chim†POm(チンポム)が初の『チンポム作品集』 (河出書房
新社)を発表した。作品には「社会に揮さぶりをかけよう」といった
政治的な意図も見え隠れするが、悪ふざけに見えなくもない。挑発ア
ートの旗手、いったい正体は何なのか?     (近藤廉太郎)

思いつき挑発窮屈な社会批判


渋谷のネズミ剥製
 【事件簿1】2006年11月、東京・渋谷のセンター街に6人の著者が現れ、夜の繁華街で大型ネズミを捕獲した。ネズミを剥製にして黄色のスプレーを塗りつけ展示。作品名「スーパーラット」。赤い頬の不気味な剥製は、どうみても日本が世界に誇るアニメキャラの……。
 リーダーの卯城竜太にエリイ、林靖高、岡田将孝、水野俊紀、稲岡求の6人チーム=写真、郭允撮影=は、現代美術家の会田誠の周辺に集まっていた学生、バンドマンたち。思いつきに近いアイデアを5人のメンバーで時には徹夜でたたき、最後に"美神″エリイにプレゼンテーション。「面白い/つまんない」と一刀両断されて採否が決まる。
 忌み嫌われるネズミも、剥製にして色を塗ったら「Kawaii」キャラか? ほかにも渋谷の上空にカラスの大群をおびき寄せた作品「ブラック・オブ・デス」など、皮肉な視線や死を扱ったテーマが目立つ。林は「過激なようだけど、商店街とも警察とも、もめたことはない」。水野も「ネットで動物保護団体に批判されたことはあったけど。でも直接抗議にはこないね」と話す。

広島上空でピカッ
 【事件簿2】08年、広島の原爆ドーム上空で「ピカッ」という文字を飛行機で描いた。新聞などで批判にさらされ、リーダーの卯城は謝罪会見を開く。一部からは謝罪会見を開いたこ
とを、「腰が引けてる」と二重に批判された。だが卯城は「作品自体を謝ったんじゃない。人を傷つけたのだとしたらそのことを謝罪した」。メンバーは、被爆者団体を回った。「新聞はたたくばっかだったけど被爆者団体の方が『一回の失敗でくよくよするな』と励ましてくれたね」と岡田が言う。
 ふざけているようで、社会性の強い作品が多いのも特徴だ。「アイムポカン」では、内戦で多くの地雷が残され、犠牲者を出しているカンボジアを訪れる。地雷で吹き飛ばしたのは高級ブランドのバッグや財布、プリクラ帳……。
 ギャル顔のエリイがどすのきいた低音ですごむ。「私ら、一本筋を通していることがあるんすよ。それは、身近なもので心にキャッチされたことだけを作品にすること」。卯城が補足した。「カンボジアや広島が"身近″になっちゃうのは、みんなで話し合うから。表面的な(今、ここ)じゃない。世界の中の(日本)、過去からつながっている(今)になる」

穴から露出し続け
 【事件簿3】全裸で公園で騒ぎ、スマップの筆頭剛が公然わいせつの疑いで逮捕された直後。天井も壁も真っ白に施エしたギャラリーに穴を穿ち、水野が穴から男性器を露出し続けた。

 作品に共通するのは規制が厳しくなる一方の社会への「おちょくり」、馬鹿馬鹿しいユーモアによる批判精神だ。だが卯城は「挑発は重要だけど、何かへの抗議目的で作品を作ることはない」といなす。「面白いことしようとしたら、どうしたって社会性、政治性が出る。レコードのA面、B面みたいなもんでしょ」
 8月、垂泉都江東区の「SNAC」で個展を予定している。

毒の笑いパンク的
 彼らの特徴の一つは、メンバーの多くが正規の美術教育を受けていないこと。アイデア一発
勝負で面白いものを作り出すことだ。-その点でパンクロック的、DIY(DO itYOurSelf)的。第2は観る者をなんとか笑わせようとするエンターテインメント性だ。赤瀬川原平らにそうした系譜はあったが、よりブラックでスキャンダラス。強烈な毒の笑いだ。
 日本では異端に見られがちだが、世界的に考えればポール・マッカーシーら、少なくないア
ーティストが同様な挑発をしており、現代美術の正統な系譜のひとつである。「アイムポカ
ン」などに見られる通り、一見軽薄にみえる外見の背後に、単なる冗談ではすまない極めてま
じめな社会批判がある。
 毛利嘉孝・東京芸大准教授

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