2010年6月15日火曜日

荒川修作初期作品展(609asahi)


死と救済」探る情動
 先月19日にニューヨークで病死した荒川修作。「死という天命に抗する」ことを命題に、芸術、哲学、科学の総合を目指していた、たぐいまれな存在を再考する展示が、関西で重なっている。
 核は「死なないための葬送……荒川惨作初期作品展」。2年前から企画されたが、開幕後に作者が急死したので、はからずも追悼展的性格を帯びた。1936年生まれの作者が、58年から61年までに制作・発表した連作から、美術館などに分散して収蔵されている20点を集めた。通称「糀榔」型作品。すべて木箱の中に、セメントで造形した名づけようのないものが、木くずを
包んだ布をマットにして納められている。造形物は不定形。卵形や臓器を思わせる部分が加えられているものもあり、表面に薄い綿が施されている。50年前の荒川白身の手足の痕跡が残る作品もあるという=写真上の右奥。発表時は暗い展示室の床に置かれ、見る者はふたを開けてのぞいたという。
 異様、壮観。もちろん、「死」を連想する。けれども収納物は、むしろ「生」やエロスに満ちる。グロテスクも含めた諸事素が混在した、どろどろの情念を感じる。
 比較すべきは、飢年の渡米後の、記号や文字を配置した平面作品「ダイヤグラム絵画」だ。情念を消し去ったような正反対の様式で、今展には不出品だが、開催館切収蔵品展示室に並んでいる。
 関連企画展として開かれているのが「荒川惨作+マドリン・ギンズ 天命反転プロジェクト」 (25日まで、京都市左京区の京都工芸繊維大学美術工芸資料館。日曜休み)。現在は実際に人が居住する「三鷹天命反転住宅」の模型=同下=などで、後年の建築や都市構想の考え方を示す。CG画像や映像なども用いた資料展だ。
 これらと向き合うと、「死と救済」という通底するテーマにぶつかる。企画者が図録で指摘するように、荒川はなんと61年に「人間救済」を表明している。だから、この棺桶群は、それまでの生育史や人間関係と断絶し、変身と新しい可能性を探る情動の表出と見える。いわば生前葬の墓標であり同時に、後に「死なないために」を旗印とする道へ向かう原点を示す道標ともいえる。 (田中三蔵)
 ◇抑顛作品展は27日まで、大阪市北区中之島の国立国際美術館。月曜休み。

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